10回目のThanksを 


こつん、こつん、こつん、
こつん、こつん、

ことん

重い革靴が床を歩き回る音が、閑古鳥の鳴く酒屋に響く。
ほんの数分前までは、この店は静かとは程遠い賑やかなものであった。
呑んだくれが騒ぎ、男と女がさも楽しげに親しげに笑う。
それが今となってはもの言わぬ肉塊と化し、濁った瞳は生前の絶望を未だ色濃く残している。
革靴を履いた男はそれらを一瞥すら向けることはことなく、ただ悠々とテーブルに投げ出された酒瓶を呷った。


「おばちゃん、御代、此処に置いとくぜ」
しかし小太りな店の主は其れに応えることはない。
男は数分前のことすら忘れているのだ。
自身がこの肉塊を作り出したことなど、まるで呼吸した回数を覚えなければいけないようなもの。
男は、軽やかな足取りで店を出た。

さて、次は何を壊そうか。
人?店?城?国?

彼には名前がない。
名前がなければ、記憶も感情も心もない。
それに飢えて飢えて、やがて彼は壊れる前に壊しだした。
さて、本当に何を壊そうか。

男は常に、渇いていた。

















「―――――おーい、何処にいったんだー!!」
人里離れた森の中、一人の少年が木々の間を飛び回り、木漏れ日に目を細めながら探し物をしていた。
軽々と数メートルを飛び回るその姿はさながら猿のようにも見えるようだ。

「おっかしいな、この辺にいた気がしたんだけど」
黄金の花びら、クリスタルのように輝く茎。
その花は、母曰く万能薬なのだそうだ。
「サーシャが風邪引いちゃったんだもんな、早くなおしてあげないと」
そう一人ごちて後ろを振り返ったときだった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

花と、目(あくまでそう見えただけだが)が合った。

「・・・・・いたぁーーーーーーーーーー!!!!」
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